パーキンソン病の治療において、薬物療法は重要な治療の一つです。
一方で、
「パーキンソン病ではどんな薬を使うの?」
「薬を飲んでいても動きにくい時間があるのはなぜ?」
「薬が効いている時間に運動した方がいい?」
「診察のとき、先生に何を伝えればいい?」
と疑問に感じている方も多いのではないでしょうか。
パーキンソン病では、症状、年齢、生活状況、薬の効果や副作用などを確認しながら、一人ひとりに合わせて治療を調整していくことが重要です。
また、治療は薬だけで完結するものではありません。運動療法や日常生活での活動、必要に応じてデバイス補助療法・手術療法などを組み合わせていきます。
この記事では、日本神経学会の「パーキンソン病診療ガイドライン2018」を基本に、近年の知見も踏まえながら、パーキンソン病の薬物療法と運動との関係を解説します。
パーキンソン病の薬物療法とは?
パーキンソン病では、脳の「黒質」と呼ばれる部位のドパミン神経細胞が減少し、身体をスムーズに動かすために重要なドパミンが不足していきます。
その結果、
- 動作が遅くなる
- 筋肉がこわばる
- 手足が震える
- 歩きにくくなる
などの運動症状が現れることがあります。
薬物療法では、不足したドパミンを補ったり、ドパミンの作用を高めたり、作用時間を延ばしたりすることで、症状をコントロールすることを目指します。
現在もレボドパはパーキンソン病の運動症状に対する薬物療法の中心的な治療薬です。近年のシステマティックレビューでも、レボドパ服用後には運動症状や複数の歩行指標が改善することが報告されています。
パーキンソン病にはどんな薬がある?
パーキンソン病の治療薬には複数の種類があります。
代表的なものとして、
- レボドパ製剤
- ドパミンアゴニスト
- MAO-B阻害薬
- COMT阻害薬
- アマンタジン
- 抗コリン薬
- アデノシンA2A受容体拮抗薬
- ゾニサミド
などがあります。
日本神経学会の診療ガイドラインでも、レボドパ、ドパミンアゴニスト、MAO-B阻害薬、COMT阻害薬など、それぞれの薬について有効性や安全性が整理されています。
また、2018年のガイドライン発刊後にも新しい選択肢が加わっています。
例えば、MAO-B阻害薬のサフィナミドは、レボドパ治療中のwearing-off現象を改善する目的で使用される薬剤の一つです。
「パーキンソン病ならこの薬」という一つの正解があるわけではありません。症状、年齢、認知機能、生活状況、薬の効果、副作用などを踏まえ、主治医が薬の種類・量・服用タイミング・組み合わせを検討します。
レボドパとは?
レボドパ(L-dopa)は、脳内でドパミンに変換される物質です。
ドパミンそのものは脳へ届きにくいため、その前段階であるレボドパを薬として使用します。
レボドパはパーキンソン病の運動症状に対して重要な薬ですが、病気の経過とともに薬の効果が持続する時間が短くなったり、薬の効き方が変動したりすることがあります。
このような変化を把握することが、その後の薬物療法を考えるうえで重要になります。
薬を飲んでも動きにくくなる「OFF」とは?
パーキンソン病の治療を続けていると、一日の中で身体の動きやすさが変化することがあります。
薬が効いて比較的動きやすい状態を「ON(オン)」、薬の効果が弱まりパーキンソン病の症状が現れやすくなった状態を「OFF(オフ)」と呼びます。
例えば、
- 次の薬を飲む前になると歩きにくくなる
- 朝起きた直後は身体が動きにくい
- 時間によってすくみ足が強くなる
- 身体のこわばりが強くなる
などです。
特に、次の服薬時間が近づくにつれて薬の効果が切れてくる現象を「wearing-off(ウェアリングオフ)」と呼びます。
現在もwearing-offに対しては、レボドパの投与方法の調整や、COMT阻害薬・MAO-B阻害薬などを組み合わせる治療が行われています。
ジスキネジアとは?
薬が効いている時間帯に、身体が自分の意思とは関係なくクネクネと動くことがあります。
これを「ジスキネジア」といいます。
ジスキネジアの出方や困り方にも個人差があります。
本人はあまり気になっていなくても、ご家族から見ると大きく身体が動いていることもあります。
逆に、本人にとって日常生活の大きな支障になっている場合もあります。
ジスキネジアがみられる場合にも、自己判断で薬を減らしたり中止したりせず、主治医へ相談してください。
ON・OFFを把握することが薬の調整につながる
診察室にいる数分間だけでは、一日の薬の効き方を主治医がすべて把握することは難しい場合があります。
だからこそ、
「薬を飲んでからどう変化するのか」
を日常生活の中で観察することが重要です。
例えば、
- 7:00 薬を服用
- 7:45 身体が動きやすくなる
- 10:30 少し歩きにくくなる
- 11:00 次の薬を服用
というように記録してみると、薬と症状の関係が見えやすくなります。
「薬が効かない」とだけ伝えるのではなく、「何時に薬を飲み、何時ごろからどの症状が出るのか」まで伝えられると、主治医が薬の効き方を判断する材料になります。
診察で主治医に何を伝えればいい?
パーキンソン病の薬物療法をより適切に調整していくには、主治医とのコミュニケーションが重要です。
ただし、診察時間は限られています。
そのため、診察前に情報を整理しておくことをおすすめします。
① 困っていることを3つ程度に整理する
伝えたいことがたくさんある場合でも、特に困っていることから優先順位をつけてみましょう。
例えば、
- 朝の動きにくさが強くなった
- 午後になるとすくみ足が増える
- 薬を飲んだあとに身体が勝手に動く
などです。
さらに、
「いつ起きる?」
「服薬との関係は?」
「どのくらい続く?」
「生活上、何に困っている?」
まで整理できると、より具体的に伝えられます。
② 症状日誌をつける
一日の中で症状が大きく変化する場合には、症状日誌も有用です。
記録する項目としては、
- 薬を飲んだ時間
- 身体が動きやすかった時間
- OFFになったと感じた時間
- すくみ足が強かった時間
- ジスキネジアがみられた時間
- 食事
- 運動
- 睡眠
- その日の体調
などがあります。
すべてを毎日記録する必要はありません。
薬の調整を相談したい時期に数日間記録するだけでも、重要な情報になることがあります。
③ 症状を動画に残しておく
診察時には薬が効いていて、普段困っている症状が出ないことがあります。
そのような場合には、安全に配慮したうえでスマートフォンなどで症状を動画に残しておく方法があります。
例えば、
- OFF時の歩行
- すくみ足
- ジスキネジア
- 姿勢の変化
- 立ち上がり
- 振戦
などです。
言葉では説明しにくい症状も、動画によって主治医と共有しやすくなる場合があります。
④ 姿勢や歩行は定期的に記録してみる
薬の効き方だけでなく、身体機能の変化を客観的に把握することも大切です。
例えば月に1回程度、
- 立っている姿勢
- 正面からの歩行
- 横からの歩行
- 方向転換
などを同じような条件で撮影しておくと、数か月前との変化を確認できます。
本人は毎日自分の身体を見ているため、ゆっくりとした変化には気づきにくいことがあります。
定期的な動画や写真は、主治医だけでなく理学療法士・作業療法士などと身体状況を共有するときにも役立ちます。
薬物療法と運動療法は「どちらか」ではない
パーキンソン病では、薬物療法と運動療法はそれぞれ異なる役割を持っています。
薬物療法では、主にパーキンソン病の症状をコントロールして、身体を動かしやすい状態をつくります。
一方、運動では、
- 全身持久力
- 筋力
- 柔軟性
- バランス
- 歩行能力
- 日常生活での活動性
などの維持・改善を目指します。
2026年に更新されたParkinson’s FoundationとAmerican College of Sports Medicine(ACSM)の運動推奨でも、有酸素運動、筋力トレーニング、柔軟性、バランス・敏捷性・マルチタスクの4領域を取り入れ、継続して運動することが推奨されています。
つまり、
「薬を飲むから運動しなくてよい」
「運動しているから薬を使わなくてよい」
という関係ではありません。
薬物療法で症状を適切に管理しながら、その人に合った運動を継続していくことが大切です。
運動は薬が効いている時間にした方がいい?
運動をする時間帯も重要なポイントです。
パーキンソン病では、薬の効き方によって一日の中で身体の動きやすさが変わることがあります。
特に運動症状の日内変動がある場合には、比較的身体が動きやすいONの時間帯に運動することで、安全性や運動の質を高めやすい場合があります。
これまでのParkinson’s Foundationの運動指針でも、可能であれば薬が効いているONの時間帯に運動することが提案されています。
ただし、ONになるまでの時間や持続時間は人によって異なります。
そのため、
「薬を飲んだら必ず○分後に運動する」
と一律には決められません。
自分のON・OFFの傾向を把握しながら、主治医や理学療法士・作業療法士と相談して運動時間を決めましょう。
運動をすると薬を減らせる?
「運動を頑張れば薬を減らせますか?」
という質問を受けることがあります。
運動によって身体機能や動作能力が改善し、日常生活で困る場面が少なくなることはあります。
しかし、それだけを理由に「運動によってパーキンソン病の薬を減らせる」と考えるのは適切ではありません。
薬の必要量は、パーキンソン病の症状、薬の効果、副作用、生活状況などを総合的に評価して主治医が判断します。
身体の調子が良くなった場合でも、自己判断で薬を減らしたり中止したりしないようにしてください。
薬が効きにくいと感じたときは?
「最近、薬の効く時間が短くなった」
「以前より身体が動きにくい」
「薬を増やした方がよいのでは?」
と感じることがあるかもしれません。
しかし、症状の変化がすべて薬の量だけで決まるわけではありません。
例えば、
- 睡眠不足
- 疲労
- 便秘
- 食事
- 活動量
- 精神的な緊張
- 感染症などの体調変化
によっても身体の動きやすさが変わることがあります。
まずは「いつ、どのように変わったのか」を整理して主治医へ相談しましょう。
薬の量・種類・飲む時間を自己判断で変更することは避けてください。症状や副作用が気になる場合には、記録をつけたうえで主治医や薬剤師に相談しましょう。
薬には副作用もある
パーキンソン病の薬には症状を改善する効果が期待される一方、副作用がみられることもあります。
薬剤によって異なりますが、
- 眠気
- 幻覚
- 立ちくらみ
- 吐き気
- ジスキネジア
などがみられる場合があります。
また、一部のドパミン作動薬では、買い物やギャンブルなどを自分で制御しにくくなる「衝動制御障害」が問題になることがあります。
本人が変化に気づきにくいケースもあるため、ご家族から見て以前と異なる行動がみられた場合も主治医へ相談することが大切です。
薬物療法について困ったときに専門職ができること
薬の処方や調整を行うのは医師です。
理学療法士・作業療法士などが薬を変更することはできません。
一方で、運動や生活を継続的にみている専門職だからこそ確認できる情報もあります。
例えば、
- ON/OFFによる歩行の違い
- 薬を飲む前後の姿勢の変化
- すくみ足が起こる時間帯
- ジスキネジアと運動との関係
- 一日の活動量
- 運動しやすい時間帯
などです。
これらを整理して本人・ご家族と共有し、必要に応じて主治医へ情報提供することは、多職種でパーキンソン病を支えるうえで重要です。
PDitでも、必要に応じて症状や身体の変化を一緒に整理し、主治医へ相談するときにどのような情報を伝えるとよいかを考えています。
パーキンソン病の治療は「薬+運動+生活」で考える
パーキンソン病において薬物療法は重要な治療です。
同時に、薬だけですべての身体機能や生活上の問題を解決できるわけではありません。
適切な薬物療法を受けながら、
- 身体を動かす習慣をつくる
- 有酸素運動を行う
- 筋力や柔軟性を維持する
- バランスや歩行を練習する
- 日常生活の活動量を確保する
- 睡眠や食事など生活全体にも目を向ける
ことが大切です。
そして、薬の効き方も身体の状態も人それぞれ異なり、時間とともに変化することがあります。
だからこそ、
「薬を飲んだ時間」
「身体が動きやすい時間」
「身体が動きにくい時間」
「困っている症状」
「運動しやすい時間」
を自分自身でも把握し、主治医や専門職へ共有していくことが重要です。
「最近、薬の効き方が変わってきた」
「時間によって歩きにくさが違う」
「どの時間帯に運動したらよいかわからない」
と感じる場合には、まず主治医へ相談しましょう。
また、運動方法や身体機能について困っている場合には、パーキンソン病の運動療法に詳しい理学療法士・作業療法士などに相談することをおすすめします。
参考文献・参考情報
日本神経学会監修.パーキンソン病診療ガイドライン2018.医学書院.
Höllerhage M, et al. Pharmacotherapy of motor symptoms in early and mid-stage Parkinson's disease: guideline "Parkinson's disease" of the German Society of Neurology. J Neurol. 2024.
Lillebæk BS, et al. Effects of oral levodopa on motor symptoms and gait impairments in Parkinson's disease: a systematic review and meta-analysis. Expert Rev Neurother. 2025.
Parkinson's Foundation / American College of Sports Medicine. Parkinson’s Disease Exercise Recommendations. Updated 2026.
厚生労働省.医療用医薬品情報(抗パーキンソン病薬).
