パーキンソン病の姿勢異常とは?
パーキンソン病では、病気の進行とともにさまざまな運動症状が現れることがあります。代表的なものとして、
- 姿勢異常(前傾姿勢・腰曲がり・身体の傾きなど)
- 歩行障害(すくみ足・突進歩行など)
が挙げられます。
これらの症状が進行すると、歩きにくさだけでなく、立ち上がる・方向を変える・家事をするなど、日常生活のさまざまな場面に影響を及ぼします。
そのため、姿勢異常が目立つようになってから対応するのではなく、早い段階から予防や評価を行うことがとても重要です。
姿勢異常にはどのような種類があるの?
パーキンソン病診療ガイドライン2018では、代表的な姿勢異常として次のようなものが挙げられています。
- 前傾姿勢(Stooped posture)
身体全体が前かがみになり、歩行中や立位で前へ倒れ込むような姿勢になります。 - 腰曲がり(Camptocormia)
腰から大きく前へ曲がり、立ったり歩いたりすると強く前屈する姿勢異常です。横になると改善することがあります。 - ピサ症候群(Pisa syndrome)
身体が左右どちらか一方向へ傾いてしまう姿勢異常です。イタリア・ピサの斜塔に似ていることから、この名前が付けられています。 - 首下がり(Dropped Head Syndrome)
首を支えることが難しくなり、頭が前へ垂れ下がってしまう状態です。 - 頚部前屈症(Antecollis)
首だけが強く前へ曲がり、視線を前へ向けることが難しくなる姿勢異常です。
これらはそれぞれ異なる特徴を持っていますが、実際には複数の姿勢異常が組み合わさって現れることも少なくありません。
なぜ姿勢異常は起こるのでしょうか?
「姿勢が悪くなったから背筋を鍛えれば良い。」そう考えられることがあります。
しかし、パーキンソン病の姿勢異常は、それほど単純ではありません。
『パーキンソン病診療ガイドライン2018』では、姿勢異常の原因として、
- 体幹の屈筋群と伸筋群の筋緊張バランスの異常
- 筋力低下
- 中枢性の固有感覚障害(身体の位置や傾きを感じる感覚の障害)
- 空間認知機能の障害
など、さまざまな要因が関与するとされています。
つまり、姿勢異常は一つの原因だけで起こるものではなく、複数の要因が重なって生じる症状なのです。
そのため、「この運動をすれば必ず改善する」という万能な方法はありません。実際に同じように身体が傾いて見えても、その背景にある原因は人によって大きく異なります。
私たちも臨床で、「Aさんには効果があった運動が、Bさんには全く効果がなかった。」という場面を数多く経験してきました。
だからこそPDitでは、姿勢そのものを見るのではなく、「なぜ、その姿勢になっているのか」という原因を丁寧に評価することを最も大切にしています。
PDitが考える姿勢異常の原因
パーキンソン病の姿勢異常について調べると、「筋力が弱いから。」「背筋を鍛えましょう。」「ストレッチをしましょう。」といった情報を目にすることがあります。もちろん、それらが必要な方もいます。
しかし、私たちがこれまで多くのパーキンソン病の方と関わる中で感じているのは、「姿勢異常は、一つの原因だけで起こることはほとんどない」ということです。
同じように身体が右へ傾いていても、その原因は人によって大きく異なります。そのためPDitでは、姿勢そのものだけではなく、「なぜその姿勢になっているのか」を明らかにすることを最も大切にしています。
神経系と運動器系、両方の視点が必要です
私たちは、姿勢異常を大きく「神経系」と「運動器系」の2つの視点から評価しています。
神経系の評価
神経系では、病気そのものが姿勢へ与えている影響を確認します。例えば、
- パーキンソン病の病態
- 薬物療法・手術療法の影響
- 薬剤の副作用
- 非運動症状
- 姿勢の感覚のズレ
- 身体の左右差
などを評価します。
例えば、薬の種類や服薬量が変わったタイミングで姿勢異常が出現することもあります。このような場合は、運動だけで改善を目指すのではなく、まず主治医へ情報提供し、薬剤の調整が必要になることもあります。
実際にPDitへ来られた方の中にも、薬剤変更をきっかけに姿勢異常が出現し、服薬を調整したことで改善したケースがありました。
このように、姿勢異常を評価するときは、身体だけを見るのではなく、病気や治療の経過も含めて考えることが大切です。
運動器系の評価
一方で、運動器系では、「身体がどのように動いているのか」を詳しく評価します。具体的には、
- 姿勢分析
- 歩行分析
- 動作分析
- 関節の柔軟性
- 筋力
- バランス能力
- 左右差
- 身体の使い方
などを確認します。
例えば、股関節が硬くなっていることで前傾姿勢になっている方もいれば、体幹をひねる筋肉の左右差によって身体が傾いている方もいます。一見すると同じ姿勢異常でも、その背景にある原因はまったく異なることがあります。
だからこそ、私たちは運動を始める前に、身体の状態を丁寧に評価することを大切にしています。
原因が違えば、運動も変わります
姿勢異常の原因は人それぞれです。例えば、
- Aさんは、姿勢の感覚がずれていることが原因だった。
- Bさんは、股関節の前側の筋肉が硬くなっていた。
- Cさんは、体幹をひねる筋肉の左右差が大きかった。
- Dさんは、足首の硬さが姿勢へ影響していた。
この4人は、見た目には同じように身体が傾いているように見えるかもしれません。しかし、原因が違えば、必要な運動も変わります。
例えば、姿勢の感覚がずれている方に、ストレッチだけを続けても改善は難しいでしょう。逆に、筋肉の硬さが原因なのに、感覚練習だけを行っても十分な効果は期待できません。
つまり、「姿勢異常」という結果は同じでも、その原因は一人ひとり異なる。だからこそ、一人ひとりの身体の状態を評価し、その方に合わせた運動を選択することが重要なのです。
姿勢異常はいつから予防すれば良いのでしょうか?
私たちは、診断された早い段階から予防的に運動を始めることをおすすめしています。
「まだ姿勢は曲がっていないから大丈夫。」そう思われる方も多いかもしれません。しかし、パーキンソン病の姿勢異常は、ある日突然現れるものではありません。身体の硬さや左右差、姿勢の感覚のズレなどが少しずつ積み重なり、気が付いた頃には大きな姿勢異常になっていることが少なくありません。
姿勢の変化は、自分では気付きにくいことがあります
パーキンソン病では、症状が左右どちらか一方から始まることが多くあります。そのため、少しずつ身体の使い方に左右差が生まれ、それが積み重なることで姿勢や歩き方が変化していきます。しかし、その変化はゆっくり進むため、自分では気付きにくいことがあります。
実際にPDitへ来られる方からも、
- 「家族に言われて初めて気付きました。」
- 「写真を見返したら、少しずつ傾いていました。」
- 「昔の写真と比べて初めて姿勢の変化に気付きました。」
といったお話を伺うことが少なくありません。だからこそ、症状が大きくなる前から、定期的に身体の状態を確認することが大切です。
姿勢異常は、早く対応するほど改善しやすい可能性があります
姿勢異常をそのままにしていると、
- 筋肉や関節が硬くなる
- 左右差がさらに大きくなる
- 身体の使い方のクセが定着する
- 歩きにくさや転倒のリスクが高まる
など、さまざまな影響が生じることがあります。さらに進行すると、筋肉だけでなく関節そのものが硬くなり、運動だけでは改善が難しくなる場合もあります。
そのため、「もう曲がってしまったから運動を始める」のではなく、「曲がり始める前から予防する」という考え方がとても重要です。
定期的な評価が、将来の姿勢を守ります
姿勢異常を予防するためには、毎日特別な運動をすることだけが大切なのではありません。もっと重要なのは、「今の身体がどのような状態なのか」を定期的に確認することです。例えば、
- 左右差は大きくなっていないか
- 身体の硬さは増えていないか
- 姿勢の感覚にズレが生じていないか
- 日常生活で動き方が変わっていないか
こうした変化を早い段階で見つけることができれば、その方に合った運動を早期に始めることができます。
「まだ大丈夫」と思っている今だからこそ、自分の身体の状態を知ることが、将来の姿勢や歩行を守る第一歩になると考えています。
まとめ
パーキンソン病の姿勢異常は、「姿勢が悪くなる」という単純な問題ではありません。その背景には、
- 病気そのものの影響
- 姿勢の感覚のズレ
- 筋肉や関節の硬さ
- 左右差
- 薬物療法の影響
など、さまざまな要因が関係しています。また、同じように身体が傾いて見えても、その原因は一人ひとり異なります。
だからこそ、「腰曲がりにはこの運動」「身体の傾きにはこのストレッチ」と一つの方法で改善を目指すのではなく、その方の身体の状態を丁寧に評価し、原因に合わせた運動を行うことが大切です。
また、姿勢異常は進行してから対応するよりも、早い段階から身体の変化に気付き、予防的に取り組むことが重要です。
- 「最近姿勢が前かがみになってきた気がする。」
- 「家族から身体が傾いていると言われた。」
- 「歩き方が以前と変わってきた。」
そんな小さな変化でも、早めに評価を受けることで改善につながる可能性があります。気になる症状がある方は、一人で悩まず、パーキンソン病のリハビリを専門とする理学療法士・作業療法士へぜひご相談ください。
