パーキンソン病の「動きの質」に着目した新しいリハビリ分類を報告しました
このたび、私たちの研究チームによる論文が、医学雑誌『Cureus』に掲載されました。
論文タイトルは、
Toward a Novel Phenotypic Classification of Parkinson's Disease for Rehabilitation: A Case Series
(リハビリテーションのためのパーキンソン病の新しい表現型分類に向けて:ケースシリーズ)
です。
今回の研究では、パーキンソン病の方を、症状の重さだけではなく、実際の「動き方の特徴」から捉え、リハビリテーションにつなげる新しい分類を提案しました。
パーキンソン病は「十人十色」だからこそ、共通する特徴を探したい
パーキンソン病の症状は、一人ひとり異なります。
身体が硬くなる方もいれば、バランスが不安定になる方もいます。左右差が強く、片側だけ動かしにくい方もいます。
同じような重症度であっても、
- 歩幅が小さくなる方
- 体幹がうまく回らない方
- 筋力はあるのに身体が安定しない方
- 片側だけが極端に使いにくい方
など、実際の動き方には大きな違いがあります。
これまでパーキンソン病は、振戦が中心の「振戦優位型」や、姿勢・歩行障害が中心の「PIGD型」などに分類されてきました。
こうした分類は、病気の経過や予後を考えるうえでは重要です。
一方で、私たち理学療法士が目の前の方に対して、
- 「どの運動から始めるのか」
- 「何を重点的に練習するのか」
- 「どのような声かけや感覚入力が必要なのか」
を決めるには、従来の分類だけでは十分でないことがあります。
そこで今回、症状の名前や重症度だけでなく、歩行や立ち上がりなどで現れる動きの質に着目しました。
今回提案した3つのタイプ
今回の研究では、早期のパーキンソン病の方を、主に次の3つのタイプとして捉えました。
- Rigid type:固さ・動きの小ささが目立つタイプ
- Loose type:不安定さが目立つタイプ
- Hemi type:左右差が目立つタイプ
Rigid type:固さ・動きの小ささが目立つタイプ
Rigid typeでは、
- 腕振りが小さい
- 体幹や肩の回旋が少ない
- 歩幅が小さい
- 身体全体が硬く、動きが滑らかにつながりにくい
といった特徴がみられます。
このタイプには、視覚的なフィードバックやリズムを使いながら、動きの大きさや体幹の回旋を引き出す練習を行いました。
単に筋力をつけるだけではなく、身体を大きく、滑らかに動かすことを重視しています。
Loose type:不安定さが目立つタイプ
Loose typeでは、身体の硬さよりも、
- 姿勢が安定しない
- 動きのタイミングがばらつく
- 筋力トレーニングで代償動作が出やすい
- 体幹や股関節周囲の筋肉を選択的に使いにくい
といった特徴がみられます。
例えば、大臀筋を使う運動をしているのに、ハムストリングスや腰の筋肉ばかりが働いてしまうケースがあります。
このタイプには、
- 体幹や股関節を安定させる練習
- 大臀筋などの働きを引き出す練習
- 身体の使い方を感じてもらうための感覚入力
- 有酸素運動
などを組み合わせました。
Hemi type:左右差が目立つタイプ
Hemi typeでは、
- 片側の腕振りが小さい
- 左右の歩幅が異なる
- 片側の体幹や下肢を使いにくい
- 身体が一方向へ傾きやすい
といった、明らかな左右差がみられます。
このタイプには、まず片側の関節や筋肉を意識して動かす単純な運動から始め、徐々に歩行などの全身運動へつなげていく練習を行いました。
左右差が強い状態で複雑な運動を繰り返すと、使いやすい側ばかりに頼る動きが定着してしまう可能性があります。
そのため、まずは片側ずつ丁寧に使い、その後に全身の連動へ進めることを重視しました。
3か月間のリハビリで何が変わったのか
今回の研究は、早期のパーキンソン病の方3名を対象としたケースシリーズです。
それぞれの動きの特徴に合わせて、3か月間の集中的なリハビリテーションを実施しました。
監督下でのリハビリを週2回行い、加えて自宅でも週2回以上の運動を続けていただきました。
その結果、3名ともに、
- 歩行
- 姿勢制御
- 運動機能
- 生活の質
などに改善傾向が確認されました。
一部の症例では、パーキンソン病の運動症状を評価するMDS-UPDRS Part IIIや歩幅、QOL評価において、臨床的に意味のある変化がみられました。
一方で、TUGという立ち上がり・歩行・方向転換を時間で測る評価では、大きな改善がみられない症例もありました。
しかし、時間が大きく短縮しなくても、
- 動作が安定した
- 左右差が小さくなった
- 代償が減った
- 安全に方向転換できるようになった
といった、動きの質の改善がみられることがあります。
この研究からも、パーキンソン病のリハビリでは、数字だけでなく、その人がどのように動いているのかを見ることの重要性が示唆されました。
「タイプ別」は、個別性をなくすためのものではありません
タイプに分類すると、
「一人ひとりを見ずに、同じ運動をさせるのではないか」
と感じる方もいるかもしれません。
しかし、私たちが目指しているのは、その逆です。
これまで多くのパーキンソン病の方を一人ひとり評価し、それぞれに合わせて運動を提供してきました。
その経験を積み重ねるなかで、
「このような動き方をする方には、この介入が合いやすい」
という共通する傾向が見えてきました。
つまり、タイプ分類は個別性を捨てるものではなく、個別性を積み重ねた結果として見えてきた共通の地図です。
まずタイプをもとに、効果が期待できる運動の方向性を決めます。
そのうえで、
- 症状の強さ
- 左右差
- 体力
- 生活環境
- 運動習慣
- 服薬状況
- 栄養や睡眠
- 本人が改善したい生活上の課題
に合わせて細かく調整していきます。
最初からすべてをゼロから試すのではなく、これまでの経験を生かして、効果が期待できる入り口から始める。
それによって、評価や試行錯誤にかかる時間を減らし、より早くその方に合った運動へたどり着ける可能性があります。
私たちは、この考え方が個別性と再現性の両立につながると考えています。
この研究は、まだ最初の一歩です
今回の研究には、重要な限界があります。
- 対象は3名と少ないこと
- 提案したタイプ分類も、まだ標準化された評価基準ではないこと
- 現時点では経験を積んだ理学療法士による動作観察が中心であり、評価者による違いが生じる可能性があること
そのため、この論文だけで、
- 「この3タイプ分類が正しい」
- 「この運動をすれば必ず改善する」
と結論づけることはできません。
今回の研究は、あくまで新しい考え方を提案する探索的なケースシリーズです。
今後は、
- 対象者を増やす
- タイプ判定の基準を明確にする
- 複数の評価者でも同じ分類になるかを検証する
- 筋電図やウェアラブルセンサーで動きを数値化する
- タイプ別プログラムと通常の運動療法を比較する
- 長期的な効果を確認する
といった研究が必要です。
パーキンソン病のリハビリを、よりわかりやすく、再現可能なものへ
パーキンソン病は「十人十色」と言われます。
それは間違いではありません。
しかし、一人ひとりに違いがある一方で、長年多くの方の動きを見ていると、共通する特徴も存在します。
その共通点を整理し、誰でも一定の視点で評価できる形にすることは、個別性をなくすことではありません。
むしろ、これまで一部の熟練したセラピストだけが持っていた経験を共有し、より多くの方へ届けるために必要な取り組みです。
今回の論文を、パーキンソン病のリハビリテーションにおける、
- 「動きの質に基づく個別化」
- 「個別性と再現性の両立」
に向けた第一歩にしたいと考えています。
まだ小さな研究ではありますが、ここから症例を積み重ね、客観的な評価方法を整え、より効果的な運動プログラムの開発につなげていきます。
パーキンソン病の方が、どこに住んでいても、診断された早い段階から、自分の特徴に合った運動を始められる社会を目指して、今後も研究と臨床を続けていきます。
